運動学習とニューロン新生

こんにちは、高椋です。今日は前回に続いて学習シリーズ第2弾です。

今回は動作を学習している時に脳では何が起こっているのかについてを主に『脳を鍛えるには運動しかない』(NHK出版) という本からまとめてみました。

 実際に脳内で何が起こっているのかは複雑でいくつもの脳内物質が絡み合っているので、ここでは単純化しています。

なぜなら、今回の記事の目的は何かを教えている人や子育てをしている人に読んでいただいて、人間の学習機能がどのようにデザインされているかを知って頂くことだからです。そうすれば自ずと、理にかなった教え方・接し方が分かってくると思います。というわけで、より詳しく知りたい方は本を読んでみてください。

それでは、始めます。

<ニューロンの結合を促す物質>
まず、新しい動作を習得する際、脳の中ではニューロン(神経細胞)がつながって新しいネットワークが形成されます。その為には新しい経験とニューロンを育てる肥料のような役目をするBDNF(脳由来神経栄養因子)というタンパク質群が必要となります。
 
そして、最近の研究ではこのBDNFを増やすためには運動(特に有酸素運動)が有効だということが分かってきました。しかし、BDNFはストレスによって増えたり減ったりするそうです。

<ストレスとニューロン新生>
では、次にストレスに対して脳内ではどのような反応が起こっているのかについて簡単にまとめてみます。

脳にとって刺激(経験)は何でもストレスになります。そして、ストレスを受けた時に出るコルチゾールというホルモンが少量ならニューロンの結合を促すが、多すぎると阻害し、あまりに多すぎると破壊してしまうという働きをします。

つまり、ストレスには脳の成長を促すレベルから壊してしまうレベルまであるということです。俗に言うと良いストレスと悪いストレスですね。

<ドーパミンとやる気>
ドーパミンは刺激をニューロンに伝える神経伝達物質の一つです。これは、やった!できた!という達成感などの快楽を感じさせます。この快感を海馬が記憶し、もっとこの経験をしたい!という意欲が生まれます。

<ドーパミンとコルチゾールの関係>

ストレスを受けてコルチゾールが分泌されるとドーパミンが減少し脳の活動が低下します。

 ストレス多い  コルチゾール ↑ ドーパミン ↓  =  やる気ダウン、うつ傾向にも
 ストレス少ない コルチゾール ↓ ドーパミン ↑  =  やる気アップ!  
                  
   
<脳内でニューロン新生が起こり、新しい動作の獲得が起こる条件>

つまり、脳内にBDNFが適量あって(有酸素運動がオススメとのこと)、課題に心地よく取り組めているときは脳内のニューロンの結合が促進されるが、もし、それが悪いストレス状態になるとコルチゾールが増えて学習効果が起こらなくなるということらしいです。

そして、「出来た!」という体験がさらにドーパミンを分泌させて、もっとやろうという意欲につながるので、ますます上手くなるという循環が起こります。

<コルチゾールと指導についての考察>
 コルチゾールは生き延びるための働きをしてきたホルモンです。危険な目にあった時に生き残るためにとった方法(戦うor逃げるor固まる)などの記憶を強化し、その場に関係ない情報を遮断する働きがあります。なので、例えば、常に危険を感じていて身を守る為に殻にこもっていると、その回路だけを残して周りの関係ない回路を破壊するので、柔軟な対応(新しい選択)をすることが出来なくなります。さらに、そうなるとBDNFが不足するのでそこから抜け出すことが難しくなるということらしいです。

例えば、運動指導で起こりうる状況としては、いつも怒られて恐怖心を感じながらプレーしていると、コーチに怒られないためのプレーの回路だけが強化されて、その他の選択をすることが難しくなるということなどが考えられると思います。

では、ここでストレス耐性を上げてコルチゾールが出ないようにしたらいいのではないか?という疑問が湧いてきます。

答え。それは可能です!
例えば、メンタルトレーニングや瞑想などを実践するアスリートはプレッシャーのある状況でも平常心を保つことを目的として心のトレーニングをしています。ちなみに、アレクサンダー・テクニークも自分の緊張状態を把握し反応を変える訓練を行うので同じ目的で使う事ができます。
つまり、コルチゾールの分泌を抑制させる訓練をしているとも言えます。

もう一つは、昔ながらの理不尽なトレーニングもストレス耐性を上げることを意図していたのではないか?という疑問です。

これについては自発的に取り組んでいるか、やらされているかによって効果は変わってくるのではないでしょうか。つまり、ドーパミンが優位になれば効果があるし、コルチゾールが優位になれば学習効果は期待できないということだと思います。

例えば、サッカーの本田圭介選手や岡崎慎司選手などは自ら逆境に飛び込み、チャレンジを続けることで、プレッシャーのかかる状況でもコルチゾールがあまり分泌されない心の強さを獲得しているように見えます。

では、その逆の例はどうでしょう? 僕は昔対戦したことがある常に監督が叫んでいて、全員丸刈りのチームを思い出したんですけど。。。 みなさんも思い浮かべてみてください。 

<まとめ>
長々と書いてきましたが、要は適度な運動をして、ストレスが少ない状態で、自発的に学んでいる時にラーニングはより効率的に起こる、人間の学習システムはそのようにデザインされているということが最近の脳科学の分野でも分かってきたということが今日お伝えしたかったことでした。

みなさんも、自分の教え方や学び方を振り返ってみてはいかがでしょうか?

<おまけ> 

うつや不安障害とは?
 うつや不安障害は、ストレスによってコルチゾールが出過ぎて、まわりのニューロンを壊してしまい、ネガティブな反応に関する神経回路だけが残ってしまう状態だそうです。なのでまずはBDNFを増やす為に気持ちよく運動をしましょうということでした。他にも、ADHDや老化、依存症などにも運動は効果的だそうです。

僕はアレクサンダー・テクニークと運動を組み合わせたら面白いのではないかという感想を持ちました。

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